ポピュリズム

 朝刊の社会面。
《新天守エレベーター設置せず 河村市長 理解求める 大村知事は再考促す》
 朝日新聞の記事はネットを探したけれど見つからないので、似たようなものをあげておきます。
名古屋城天守「エレベーターなし」方針は「極めて重大な事案」大村知事》
http://hicbc.com/news/detail.asp?id=00046BF1
 またまた出ベソがぁ……。名古屋市でそう決めたのである。それを障害者団体からねじ込まれたからと言って、県知事がしゃしゃり出る幕かぁ?
 名古屋市名古屋城天守閣再建に関して、エレベーターを設置しないことを決めた。しかし、納まらないのは障害者団体で「障害者差別解消法に違反し、差別的取扱いといえる」と言い出した。
 そうじゃないって。歴史的建造物は忠実に寸分も違わず復元してこそ価値があるのだ。例えば、法隆寺の壁画を完璧に再現したとしよう。素晴らしい出来である。燃え落ちる前の姿を忠実に再現して、かつてはこの絵のとおりだったに違いないと観覧者に思わせる。
 その絵の中で、壁画の観音様の白毫にQRコードが埋まっていたらどうだろう。そのQRコードは観覧者に壁画の由来などの情報を伝えるためのものだ。法隆寺を訪う情報弱者にとってとても役に立つ。でも、壁画にQRコードがある時点で、その壁画は歴史的な価値を失う。どうですか?
 もっと具体的な例を示そう。三河の国にはあちこちに城跡が残っている。例えば徳川家発祥の松平城址
http://www.matsudairagou.jp/about/joshi.html
あるいは武田家と徳川家の最前線に造られた戦国期城郭の最高峰ともいわれる古宮城址
https://www.okuminavi.jp/search/detail.php?id=534
などがある。これは城址好きから言わせてもらうと、名古屋城よりも百倍も楽しい場所である。価値のある場所である。とはいえ、それは人それぞれだから名古屋城の好きな人がいてもいいんですよ。
 でもね、松平も古宮も山あいにあって、城址の下の平地には駐車スペースもあるのだが、そこからのアクセスはかなり険しい。おそらく障害者の人が行くのは大変だと思う。
 しかし、城址にエレベーターとかエスカレーターを設置すれば、簡単に行けるようになる。障害者の人ばかりではなく幼子も高齢者にも城の全容を見てもらうことができるだろう。でもね、それでいいのかということである。
 松平城址、古宮城址、この風景の中にエレベーター、エスカレーターをイメージしてください。それがあっても歴史を感じさせる風景だ、と主張するならば、もうなにも言うことはない。

 と言いながら、さらに極論を言おう。クフ王のピラミッドである。これにエスカレーターを設置するのか、ということ。
「おいおい、クフ王のピラミッドと名古屋城では歴史的価値が違うじゃないか?」
 そう言われる人もいるだろう。しかし、価値観は人それぞれだ。ピラミッドがいい人もあれば、名古屋城愛する人もいる。山の中にある城址が好きな変人もいる。そういうこっちゃ。
 どれにも歴史的価値があり、どれもアクセスに不便だ。それをどこまで許容して、どこからダメなのかということである。少なくとも「基本的人権」などという言葉とはそぐわないものである。
「障害者の基本的人権にかかわる問題で、極めて重大な事案であると認識をせざるをえない」
これを障害者が言うならまだしも、責任の生じない他の自治体のトップがグダグダ言い出すのは、ポピュリズムと言われても仕方ない。
《県内の障害者団体が16日に反対表明をする予定》なのだそうだが、名古屋市には頑張って欲しい。

《小学校のころ、登校にくらべて下校が、あんなに自由に感じられたのはなぜだろう。》という間抜けな書き出しで始まる「天声人語」にも触れたかったが、時間がなくなった。まぁ今日は見逃してやろう。