九代目有楽亭八雲

 まだ「落語心中」を引きずっている。
全10巻を通じて、格好いいのは八代目の八雲師匠だ。クールで頑固で偏屈なんだが、女を演じさせると艶っぽく仇っぽい。暗い過去を背負っていて、常にストイックである。コミックの主幹を成すのは、やはり八代目の八雲とその兄弟子の二代目の助六の物語である。助六は八雲と違った意味でいい男なんだが、なにしろ若くして死んでしまうので、登場が回想か幽霊でしかない。太い幹を形成しているにも関わらず、現在のドラマに登場しないのだから、なかなかメインにはなれないんですね。
 そこへいくってぇと、九代目の八雲、つまり三代目の助六は、1巻目ののっけからコミックの中心に躍り出る。通し狂言で言うと狂言回しの役割なんだが、これが存在感がある。ある意味において、この話は、チンピラヤクザの与太郎の成長譚でもあるのだ。
 八代目の八雲が亡くなり30年くらいが経過しているのかなぁ。世は平成、与太郎が九代目八雲を襲名する話が大団円である。ラストに与太郎と、与太郎の贔屓の作家の会話がいい。

作家「結局八雲師匠は落語と心中なんてできなかった。しかしたった一人の意志でも滅びうる危ういものなんです」
作家「師匠がきまぐれにあなたという未練を残した たった一人で滅ぼせるなら たった一人でも復活しうる」
作家「戦争があろうと 時代が変ろうと その時々に形を変えて 雑草のように しぶとく息を ふき返すんです」
与太「ふ〜ん」
作家「コラコラ 何だね その顔 僕今すっごくいい事を言ったんだが(怒)」
与太「先生 ず―――――っと そんな事 考えていたのかィ?」
与太「頭がいいてエのア 大変だねドウモ…」
与太「オイラ 落語が無くなるなんざ いっぺんも考えたことねえんだ だってよ」

 ここでページが変る。見開きが真っ黒に塗りつぶされて右のページに縦長の窓があって、そこに黒紋付きの着物姿の与太郎が満開の桜をバックに笑っている。そして言う。

「こんないいモンが 無くなる訳ねぇべ」

 ワシャはコミックのページに向かって「九代目!日本一!」と声を掛けた。