栃ノ心優勝

 栃ノ心の平幕優勝について「上位陣が不甲斐ないだけ」という意見もある。しかし、異国から来て一時は幕下まで陥落したにもかかわらず、また復活して最高優勝を果たす。これはこれでいいのではないか。同じ横綱がずーーーーーーーっと優勝し続ける味気なさ、その単調さに比べれば変化に富んでいて相撲ファンとしては実に楽しい。
 それに栃ノ心のいいところは、相手を寄り切った後に、ふっと力を抜いて相手のまわしあたりを支えて、土俵から落ちないように気を使う優しさにある。相手が土俵を割っているにも関わらず、ダメ押しをして土俵下に突き飛ばすバカ横綱がいますが、そういうことをすると相手が怪我をする可能性が高くなるわけで、そいつと比べても栃ノ心はかなり上等な力士と言える。
 白鵬稀勢の里が不在でも、大相撲はまったく陰りを見せなかった。かえって下位のベテラン、若手が溌剌と活躍し、いつになく盛り上がった場所のようにも感じる。
 栃ノ心の故郷は中央アジアジョージアである。ワシャらの世代にはグルジアの方が馴染があるが、人口500万人ほどの黒海東岸のキリスト教国である。この国では極東のスモウレスラーとして優勝した若者にジョージア国民栄誉賞を贈る検討が始まったという。いいことじゃないか。
 ジョージアの力士の優勝に、心から拍手を送る日本人ファンたちの様子を見て、ジョージアの人たちも日本人に好感を持ったであろう。これは間違いなく中央アジア親日国をまたひとつ増やした。
 栃ノ心が14勝1敗で千秋楽を飾った記事の横に、小さく八角理事長の写真が挿し込んであった。中入りの協会あいさつの写真で、連続する不祥事に詫びた際のものである。暴力事案がないか、全力士に聴取するという。ううむ……でもね、これって時津風部屋の暴行死事件の時にもやっているよね。それでも結果として成果がでなかったことが今回証明されたわけだ。やらないよりやったほうがいいが、つまるところ、組織自体が持っている体質のようなものだから、これは抜本的に改革をしなければ治らないと思う。せっかく爽やかな栃ノ心の優勝で明るさが見えてきたのだ。どんな手(エルボースマッシュなどね)を使っても勝とうとする品のない横綱の優勝額ばかりが国技館を埋めてしまってはいけない。それも40度も無駄な優勝を重ねて慢心している心技体の「心」のない強者は不要だ。

 また今月も買ってしまったが、月刊誌の「WiLL」3月号。大相撲の問題に筑波大学教授の古田博司氏や漫画家の黒鉄ヒロシ氏が苦言を呈している。
 古田氏は、白鵬などのモンゴル人力士から始まった「ルール内であれば勝つためにどんな手を使ってもいい」という伝統文化の破壊について警告をしている。例えば2016年の夏場所白鵬はエルボースマッシュの一撃を勢(関取)の顎にみまってノックアウトしたのである。気を失った勢はそのまま膝から土俵に崩れ落ちた。「相手が死傷しないように陰で工夫する擬制」というルールの外ではあるがお互いに致命傷を受けないためのセーブ、思いやりのようなものがあって事故を防いできたところもあった。それを白鵬らは「勝つため」の一点のためにかなぐり捨てた。古田氏はそのことを危惧している。
 黒鉄氏は、今回の騒動の協会側を代表している相撲評議員会の池坊保子氏に「もともと非常識な相撲の世界を、合理的・常識的な視点で判断を下すのがそもそも間違っている」とダメ出しをしている。
 栃ノ心優勝で盛り上がっている大相撲だが、その背後にはまだまだ解決しないといけないことがあり、まともな識者たちも声を上げ始めている。おもしろくなってきたわい。

 池坊オバサンの話をひとつ拾ったんだけど、もう時間がなくなった。そのことについはまた明日にでも。