凸凹商事の執行部の新年会があった。筆頭は副社長で以下総勢二十数名の宴で、これがつまらない。なにしろ話は仕事のことばかりで、次の人事はどうだ、退職してからどこへいくか、どこそこの部長は社外役員のだれと仲が悪く喧嘩をした、とかそんな話で終始する。芸者も座っているのである。そんな場所で無粋な噂が楽しいか。宴の途中で、三味線と舞が始まっても、舞台を見るわけでもなく、額を寄せて話を続けている。
「まってました!」「たっぷり!」「日本一!」なんて声を掛けているのはワシャばかり。どうやらこっちが変なやつらしい。
 着座して、隣の部長から囁かれたのは、他の部長があることで失態を演じたという話で、そんな話はまったく興味がない。二度ばかり頷いていたら、熱燗を持って芸者が通りかかったので、つかまえた。
「糸鈴ネーサン、この前、駅南口の居酒屋で会ったねぇ」と振ると「ワシャさんいつもあそこ行くの?」と聴いてくる。「いやーはじめてなんだけどさぁ、糸鈴サンは常連なの?」「あの店さぁ、餃子が美味しいのよ。だから仕事が終わった後にたまによるのよ」「ああ、確かに餃子が美味かった。糸鈴サンに会えるならワシャも通うべぇ」というようなつまらぬ話がいい。そこから旅行の話へ転がっていって、京都の寺の庭の話で盛り上がる。
「そうそう、駅前に新しくできたあの施設、4階の北東の角に『癒しの空間』ができたみたいですぞ」
「どんなどんな〜」
「詳しく言っちゃうと感動が薄れるので、そうねぇ瞑想する空間とでも言いましょうか。そこで読書をしてもいいんだけど、ちょっとした仕掛けがあるらしいッス」
「糸鈴、行ってみるね」
 てな会話が、罪がなくていいじゃありませんか。周囲は無粋な話題ばかりで、だから拗ね者のワシャは敬遠されるんでしょうね。来てくれるのは芸者ばかりでそれはそれで楽しい。
 2時間が過ぎて、芸者衆が引っ込んで、中締めが入ったので、その途端に来賓も残して座敷を後にした。おかげで8時過ぎには、居間で大相撲の録画を見て「いけー、御嶽海」とか叫んでいたのだった。あ〜楽しかった。