居残り佐平次

 昨日、刈谷市立川談春の独演会があった。演目は「居残り佐平次」、廓噺の大ネタである。こりゃ楽しみだ。しかし、いくら大作とはいえ「居残り」一本で、3時間を持たせるのは大変だろう。そう思っていたら、談春もそう思っていた。
「一見(いちげん)のお客さんも多いだろうから、一本しか演らないと、談春はなんだ!という話になる」
 と、マクラをおいて、小ネタの「子ほめ」を冒頭に演った。その後に「居残り」である。「子ほめ」と「居残り」の前編で1時間半を使った。1500人の客をいっさい逸らさず、笑いの渦に巻き込んでいった。
 談春、師匠の談志も認めたその才能は、21世紀になってみごとに開花した。一時期はライバルの志らくに水をあけられたこともあったが、どうだろう、器の大きさということから言えば、談春のが一枚も二枚も上だろう。ゆくゆくは名人と呼ばれる存在になっていくことは間違いない。
「居残り」の後編までたっぷり3時間を談春は噺しつくした。にも関わらず「『笑点』が始まるまでにはまだ時間がありますから、まだ2〜3分はいいでしょう」とオチがついてからもまだ喋っている。客としては『笑点』など見なくてもいいから談春のライブをもっと聴きたい、そんな心境ではなかっただろうか。
 
居残り佐平次」をベースにした日本映画の名作がある。フランキー堺が主演の『幕末太陽傳』である。フランキー堺の佐平次が格好よかった。廓の二階廊下を歩いていて、羽織を頭上に投げ上げ、両手を差し上げると羽織の袖がふうわりと通って着付け完了、なんて芸当をいとも簡単にやってしまう。粋な江戸っ子佐平次だったねぇ。
 今回の談春佐平次も切れ味のいいいいなせなおあにいさんとして完成していた。聴いていて多分にフランキー佐平次のDNAを感じたのだが、どうなのだろう。もちろん談春は師匠譲りの勉強家なので『幕末太陽傳』は自家薬篭中の物にしているのだろう。随所にフランキー堺を見ましたぞ。
 とにもかくにも大ネタ中の大ネタを談春で聴けたのは収穫だった。あ〜おもしろかった。