ワシャの書棚に『市川染五郎と歌舞伎に行こう!』(旬報社)
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がある。2000年に発行だから、グラビアに写る染五郎は27歳、まだまだ若い。このころはどんな役者なのか知らなかったので一応本を買ったという程度。それほど注目していたわけではない。松本幸四郎の息子で、松たか子の兄ちゃんか、くらいの認識でしかなかった。
それがどうでしょう。今回の「錦秋名古屋顔見世」ではずいぶん成長を見せている。そりゃあ厄年を過ぎたのだから落ち着くといやあ落ち着くのでしょうが。とくに「壺坂霊験記」の染五郎がよかった。沢市というあか抜けない座頭を、色男の染五郎がごく自然に演じていた。染五郎、芸の幅が広がったなぁ。世代交代が確実に進んでいる。これからの染五郎に期待したい。
片岡孝太郎のお里もよかった。48歳をこえて風格が出てきたわいなぁ。顔がわりとごついので、赤姫よりも世話女房のような役が「にん」なのだろう。
※「にん」http://www.eonet.ne.jp/~jawa/kabuki/yougokaisetu.html
沢市、お里ともよかった。だから「壺坂霊験記」はよかった……とはならない。この狂言には、主要な役として観世音菩薩が登場する。これを子役が演じるのだが、今回は残念だった。おそらく通常の演劇であればいい出来だと思う。ワシャの観た舞台でその子役は熱演していた。感情がこもっていて菩薩の慈愛がにじみ出している。演技者としては上等だった。しかし、それではダメなのだ。
歌舞伎の重要な決め事のひとつに、「子役がセリフを言うときには抑揚をつけない」というものがある。その子役は、感情をこめて観世音菩薩を演じるあまり、セリフに抑揚が効いていた。くどいが、普通の演劇ならそれでいい。でも歌舞伎は別物なのである。そんなことは練習の時から判っていたことだと思う。染五郎を含めた周囲の関係者はもう少し注意をはらうべきではないか。いくら名古屋とはいえ歌舞伎の型を壊してはならない。
話が逸れた。もう少し染五郎の話を続けたい。「週刊ダイヤモンド」の9月24日号である。ここで「歌舞伎に誘う」という特集をやっていて、その中に染五郎のインタビューが載っていた。
「僕自身、これからの歌舞伎の発展につとめなければならないという責任感と危機感を持っています」
よく言った!平成30年代40年代を背負って立つのは染五郎丈である。だから子役にも気を配ってね(笑)。