津久井事件

 もうすでに触れられていることだが、この事件が戦後最悪の殺人事件となった。朝日新聞の見出しでは「犠牲者数 平成の事件で最悪」と書かれている。戦前まで含めたり、昭和というくくりでいうと、あの「津山三十人殺し」(昭和13年)という極めて凄惨な事件があるために、今回がワースト2の凶行になった。
津山三十人殺し」は横溝正史が小説にしている。
《詰襟の洋服を着て、足に脚絆をまき草鞋をはいて、白鉢巻きをしていた。そしてその鉢巻きには点けっぱなしにした棒状の懐中電灯二本、角のように結びつけ、胸にはこれまた点けっぱなしにしたナショナル懐中電灯を、まるで丑の刻参りの鏡のようにぶらさげ、洋服のうえから締めた兵児帯には、日本刀をぶちこみ、片手に猟銃をかかえていた。》
 有名な『八つ墓村』の冒頭である。殺人者を山崎努がおどろおどろしく演じていたことを思い出す。
 ノンフィクションとしては、松本清張の「闇に駆ける猟銃」、あるいは筑波昭がその詳細を「津山三十人殺し」として新潮社から出版している。
「津山事件」は犯人が自殺をしてしまった。このために犯人の自供というものがなく、その精神・身体における医学的な観察もできなかった。なぜこんな凄惨な事件が起きうるのか、そのところが解明されないまま、地域ではこの事件がタブー化され、なにも語られないままに歴史が流れた。
 今回の事件では、防犯カメラに捉えられた犯人の姿がある。車を停めて、トランクから何やら荷物を運び出す様子と、その1時間後に小走りに戻ってくる犯人の様子である。軽やかに戻ってくる犯人の姿を見た時に、前述の『八つ墓村』の殺人者を彷彿とさせるものがあった。この犯人、殺人を楽しんでいる。
 これはなにがなんでも、この犯人から供述を引き出し、医療的な検査も徹底的に行って、なにがこういった悪鬼を産み出すのか解明しなければいけない。まちがっても留置所内で自殺させるようなことがあっては駄目だ。

 もう一点、友人の指摘があったので、NHKニュースを凝視していた。友人は「この施設には『ALSOK』のステッカーが貼ってあった」と言う。確かに夜のニュースを見ていたら、あざといくらい目立つように放送されていた。セキュリティがまったく役に立たなかったということらしい。

 ベルギーやフランスでのテロ犠牲者があまりにも多いのでついつい悪慣れをしてしまっていたが、この「津久井事件」はとんでもない殺戮事件である。ここは腰を据えて全容解明をしていかなければいけない。