選択肢がないけれど

 今朝の朝日新聞「声」の欄。鹿児島県の女子高校生からの投書である。題は「18歳選挙権に戸惑っています」。要旨は「こんどの参院選で投票ができるが、政治状況が理解できていない。興味もない。なにより受験の大変な時期で、どう投票すればいいのか戸惑っている同世代は多い。本当はこんな状態で投票に行くべきではないが、ネットで現在の政治の課題を調べ、家族にも訊いて、もう少し理解できたら投票に行くつもり」というようなものだった。
 ふむふむ、真面目に選挙権の行使を考えているところは好感が持てますな。ワシャの高校生時代を振り返っても、その時の政治がどんな状況だったかなんて、まったく興味がなかった。
 でもね、そんなに卑下することはないと思う。あなたが見上げている大人たちだって、大して政治のことなんて知らないのだから。端的な例が組織票である。
「◇×党のアホ山トロ夫に入れろ」と、上部機関や上司から言われたら言われたまま投票用紙に記載して、投函して、投票済証をもらって終わり。組織票が読めるというのは、そういうことなのだ。
 以前にワシャが投票所に入った時、たまたま80歳くらいのお婆さんが50代くらいの女と投票所の入り口でなにやら話している。聞き耳を立てていると「アホ山トロ夫よ、アホ山トロ夫、大丈夫?」と女が何度も言っている。お婆さんは何度も頷いて、一人で受付を済ませて投票用紙を受け取った。そしてゆっくりと記載台まで歩んできた。ワシャはなんとなく興味を引かれたので、記載台の端で候補者を考えるふりをして様子を見ていた。
 お婆さんも時間が掛かっていた。しばらくしてお婆さん、係員を呼んだ。「手が震えで字が書けない」と言うのだ。もちろん代理投票という制度があるからオッケーである。担当の係員と上役のような人が来てお婆さんに対応した。
「お婆さん、どの人ですか」
 記載台に候補者の名簿が貼ってある。そこを指さしてもらう。
「この人でいいですね」
 と、係員が確認をする。その名前を投票用紙に代理記載して終了である。ところがお婆さんが突然語り出した。
「あたしゃこの人は嫌なんだけど、〇〇さんが、入れろ入れろってうるさいもんだから、ほんとは嫌なんだよ、この人に入れるのは」
 お婆さんはそう言いながら、係員から記載済みの投票用紙を受け取って投票箱に入れたのだった。え、ホントにそれでいいの。

 そういうことなのだ。おそらくまともな政治状況を熟知したうえで投票している大人なんてごくわずかでしかない。それこそテレビで偉そうに座っているコメンテーターたちだって、基本となっている情報を知らないなんてことは往々にしてある。
 今回の英国EU離脱にしても、投票結果によっては即日離脱するものと確信して話していたアホコメもいる。そんなレベルでしかない。
 高校生はまだまだ狭いエリアの中にいる。だから、きっと高邁で深遠な社会がどこまでも広がっているのだろうと想像する気持ちも分かる。でもね、そんなことはない。天の上の存在だった都知事もあの体たらくだし、以前の首相を見れば、あんなものなのである。政治闘争と言ったって、高校生同士の勢力争いとそれほど違わない。まだ高校生のほうが潔かったくらいだわさ。

 そのくらいの気楽さで、とにかく投票に行ってもらいたい。まず投票をすることで政治に参加してみよう。ワシャ、総務省の回し者か(笑)。