殉愛

 一昨日、いつもの駅前の本屋に立ち寄って、いつもどおり雑誌の立ち読みや、新書やコミックの棚をうろうろして、すでに手には数冊の本がある。レジ前の新刊コーナーを眺めていて「百田尚樹」という文字が目に触れた。
「百田さん、また本を出したんだ」
 じっくりと見れば『殉愛』という題で、およよ!帯に「やしきたかじん、最後の741日」とある。やしきたかじんさんの人生のラストを百田さんが書いたのである。これは即買いだ。
 一昨日は宴会だった。書店で30分程時間つぶしをしてその後、いつもの料理屋に顔を出す。楽しい宴席だったので、その日は酔ってしまい、自宅に帰りつくとそのまま寝てしまった。
 翌土曜日は仕事だった。夜になって自宅にもどったのだが、あちこちに電話をすることがあってバタバタしていたし、「闘病記」のようなものが少し苦手なので、結果、手に取らずに深夜になってしまい、そのまま忘れてしまった。
 それで今朝である。朝日新聞をくつろげると、3面記事下の広告に、百田尚樹『殉愛』(幻冬舎)が4段ぶち抜きで載っているではあ〜りませんか。
「ラッキー」てなもんですわ。新聞にデカデカと載った本が手元にある。よし、今日の日記のネタは決まった、とほくそ笑んだ。でもね、まったく読んでいなかったので、まえがきとあとがきくらいは読んでから書こうと思って、ページを開いたら、さぁたいへん。
 読みだしたら止められなかった。午前中に読み切ってしまった。途中で何度も泣いた。たかじんさんの闘病生活は凄かった。ワシャは注射やメスが死ぬほど嫌いなので、闘病記などは読みたくない。しかし、たかじんさんの最後を名手百田尚樹が渾身の思いをこめて綴ったのである。ぐいぐいと引き込まれて、気がつけば、エピローグを読み終わっていた。
 凄い本である。

 たかじんさんが2014年1月3日になくなった。その後、週刊誌では、発病直前から付き合い始めたさくら夫人のことを「遺産目当て」「たかじんの会社を乗っ取った」「悪女・女帝」などと酷評していた。
http://news.livedoor.com/article/detail/9159270/
 この本は壮絶な闘病記でもある。「悪女・女帝」と週刊誌に叩かれた女性の741日の戦いの記録なのだ。それを、がんこでまっとうな百田尚樹が書く。おもしろくないわけがない。
 テレビから見えるたかじんさんはとても強い人だった。「あんなふうに強く生きられたらいいなぁ」と憧れたりもした。その尊敬の念はいまだに変わらないが、闘病中に見せるたかじんさんの人間的な部分にも好感が持てた。

 残念ながら、幻冬舎が先行して宣伝をした『土漠の花』は一気に読めなかったが、『殉愛』は一気読みだった。やしきたかじんをテレビで見たことがあって、あの破天荒な生き方が嫌いでなかった方には、ぜひお勧めしたい。
 百田尚樹『殉愛』(幻冬舎
http://www.gentosha.co.jp/book/b8272.html