年末テレビ

 年末・年始になると「どうでもいい特番」や「一年のニュースの振り返り」などで埋められておもしろい番組(もともと少ないけど)がなくなっていく。でも、この2〜3日はなかなか見ごたえのあるものがいくつかあった。
 まず28日の午後6時に放映された「人生の楽園」、これは西三河の小さな自転車屋さんを取り上げたもので、店主さんの人生が巧みに切り取ってあって、地元の話でもあったし……ちょいとジーンとくる内容だった。素敵な生き方って、地位とか名誉とか、ましてや金なんかではないんだなぁ……って思った。

 29日のテレビもよかった。午前9時からEテレでやっていた「日曜美術館選」である。影絵作家の藤城清治の特集で、おそらく皆さんも、藤城さんの作品はどこかで目にしておられるのではないか。わりと目の大きいあごのとがった子供の影絵をご記憶にないですか。
http://www.fujishiro-seiji-museum.jp/
 上記をクリックして、下にスクロールしてもらうと影絵の子供が出てきます。ね、見たことがあるでしょ。
 その藤城さんの光と影の作品をテレビのなかでいくつも紹介していたが、今年、作成された「気仙沼 陸に上った共徳丸」など、
http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2013/0825/
これ以外にも素晴らしい光と影の作品が登場した。本棚に藤城さんの作品集があったはずなのだが、今、ちょっと探したんだけれど見つからなかった。
 なにしろテレビに映った藤城作品は見事だった。枝葉がうっそうと生い茂る大樹の中を、月光が突き抜けて、その根元でチェロを弾く小人を照らし出している。背後からの光をうまく使った演出で幻想的な雰囲気を醸す。あああ、現物が見たい。

日曜美術館」が終わると、続いてNHKの総合で「松任谷由美スペシャひこうき雲誕生秘話」があった。「荒井由美」の頃からのファンだから、これは見逃せない。内容はユーミンに密着して、新曲の「シャンソン」ができるまでをパリやロスアンジェルスのロケも敢行してまとめあげたものだ。さすがNHK、金をかけているなぁ(笑)。
 実は番組の中身などどうでもいい。久々にユーミンの動く素顔を見られたことと、新曲「シャンソン」がフランスの詩人ジャック・プレヴェールの作品に触発されたできたことが分かっただけでも収穫だった。
 その上にである。番組の最後にユーミンがその「シャンソン」を歌った。歌自体は、まだ馴染みがないので「ふ〜ん」てなもんでした。でもね、歌うユーミンの映像は、とても素晴らしい。
 ユーミン、黒のミニのドレスを着て、白い花道に立って歌う。背景も白だった。道の両側にはオーケストラが居並んでいるが気にならない。歌い終わってユーミンは白い道の真ん中あたりで静止した。白い世界の中で強い光源が背後にあり、ユーミンをシルエットとして浮かび上がらせている。ユーミンの影が道に伸びていく。光と影の織り成すモノトーンの世界だ。
 このユーミンの影が、藤城さんの影絵と重なった。まさに藤城さんの作品のようになっているのだ。もちろんチャンネルが違うので、NHKの作為はないと思うけれど、これを計算して番組を作っているとしたら、NHKあなどれぬ。

 午後8時からは、やはりNHKのEテレで「日曜美術館」。こちらは銀閣寺の襖絵を書いた日本画家の奥田元宋だった。赤の巨匠の作品が次から次へと紹介されていく。なにしろすごい迫力だ。テレビを通してもそのすごさが伝わってくる。これを生で観たら、きっと酔ってしまうだろう。魂をわしづかみにして揺さぶられてしまうかも。
 カレンダーの挿絵のようなものばかりを描いていた平山郁夫とはまったくレベルが違う。銀閣寺の襖絵が観たい〜!

日曜美術館」に続いては「古典芸能への招待」だった。ううむ、ずっとテレビの前に座っているなぁ。番組は「京都南座顔見世大歌舞伎」から「元禄忠臣蔵」と「義経千本桜」である。
「元禄忠臣蔵」の中車は、赤穂浪士富森助右衛門を好演していた。新歌舞伎なら、キャリアの浅い中車でも名題としてやっていける。本人もこの路線でいくと決めたのだろう。なかなかいい演技をしていた。しかし、顔が化粧映えしないというか、まだ慣れていないんでしょうね、今後に期待ということで。
 四代目猿之助の狐忠信は落ち着いてきた。三代目の演技をよく研究しているのが理解できる。口跡や動きが三代目をほうふつとさせる。海老蔵御園座で同じ演目をやったけれども、残念ながら猿之助に軍配をあげざるを得ない。海老蔵は精進あるのみ。

 午後11時からは「美の壺」があった。草刈正雄さんが案内役でいろいろな品を取り上げるこの番組も上品でいい。今回は「ツイード」がテーマだった。いろいろと勉強になるなぁ。
「テレビばっかり見ていないで勉強しなさい!」
 と母親の声が飛んできそうなので、夜の12時前にはすごすごと書庫に引っ込んだのだった。