三題噺

 えー、毎度ばかばかしいお笑いを一席。今日は三題噺ということで、お題は「鎌倉」「團十郎」「豊橋美術博物館」なんでゲス。なぜかこの三題に決まっているんですな。さあて、この三題をどうまとめましょうかね。

 まず、取っ掛かりは「豊橋美術博物館」にしよう。これは簡単だ。だって、ワシャは昨日そこに行ってきたんだもんね。ちょうど今日まで「雪月花美人画の四季」と題する日本画のコレクション展をやっている。あやうく松園や清方を見逃すところだったので、急いで美人同好会の友だちと豊橋に行ったというわけ。
 さて、展示である。一言でいうと玉石混交だった。松園、清方、深水は言うまでもないが、池田蕉園、島成園もなかなか良かった。でもね、ひどいのも混じっていて、あえて名前は出さないけれど、前面の美人は悪くないのだが背景にまったく手を入れていない杜撰な作品や、奥女中の着物の矢絣の模様がまるっきり描けていなかったり、見るも無残な作品が何点かあった。なにしろ松園、清方、深水のクオリティの高さが光っていた。
 そうそう鎌倉と言えば、「鏑木清方記念美術館」がありましたぞ(ホッ)。鎌倉駅を降りて小町通りを北に少し行った閑静な住宅地に清方の旧居がある。それが美術館となっている。美人同好会の会長としては、これはお薦めのポイントである。名古屋の名都美術館にも展示されたことがあるが、「金色夜叉」はよかったですぞ。これも清方記念美術館所蔵なので行ったら会えるかも。
 歌舞伎に「寿曾我対面」(ことぶきそがのたいめん)という狂言がある。いわゆる「曾我物」と呼ばれる演目で、曾我兄弟の敵討ちを扱っている。歌舞伎宗家の市川團十郎家に伝わる十八番の六演目が「曾我物」である。それほど曾我兄弟の敵討ちと歌舞伎の縁は深い。
「寿曾我対面」である。十二代目團十郎の襲名披露の舞台にも掛かっている。ざっとあらすじを紹介すると……曾我兄弟(十郎、五郎)の父親は、源頼朝の側近の工藤祐経に討たれて非業の死を遂げている。その工藤祐経の屋敷では、工藤の出世を祝って盛大な宴を張っている。そこには多くの大名、小名や、遊女なども招かれていた。そこに曾我兄弟が現われて、工藤祐経と対面する……というもの。だから「曾我対面」という題になった。
 この狂言に花を添えているのが、遊女たちである。その中でも準主役級が化粧坂の少将という遊女で「けわいざかのしょうしょう」と読む。なかなか艶っぽい名前でしょ。歌舞伎に数々登場する傾城の中でも、ワシャはこの化粧坂の少将が一番気に入っている。
 さて、この化粧坂の少将である。歌舞伎の設定では、鎌倉時代に遊女屋があったということになっている。その一つが化粧坂にあり、そこの№1が少将さんだったということ。なぜ少将と呼ばれたのか。それは平安末期から鎌倉にかけて遊女は落魄した貴族の娘がなっていたようで、父親の肩書で呼ばれたらしい。
 その遊女屋のあった化粧坂が鎌倉にある。鎌倉駅の西の今小路を北に1kmほど上がった辺りから西(左)に折れる。鬱蒼とした樹木の間をぬけるむき出しの坂道である。鎌倉七口の一つで、新田義貞の鎌倉攻めの主戦場ともなっている。きっと今頃の紅葉は、城を傾けた遊女のように美しいと思いますぞ。
 無理無理だけど團十郎と鎌倉をなんとかつないだわい(ふう)。
 
 今年の2月3日に急逝された十二代目團十郎丈が『團十郎の歌舞伎案内』(PHP新書)を出されている。平成20年の4月に上梓されている。これは平成16年の白血病発症、平成17年の再発の後であることから、「はじめに」で病気のことに触れておられる。そのまとめとして「命と時間」について書いている。
《与えられた時間を自分のために使うのも自由、人のために使うのも自由。ただわたくしは、このように紆余曲折を経て与えられた命=時間は、わたくしに、とことん歌舞伎役者として生きなさいという贈り物なのだと思っております。》
 そう言われた團十郎丈、その後の5年を全力で生きて、そして彼岸へと旅立たれた。享年66歳。その父親の十一代目團十郎の命日が実は今日である。「花の海老様」と呼ばれて一世を風靡した色男だった。この人もまた足が速かった。十一代目を襲名して3年半、56歳でお亡くなりになっている。十二代目は「團十郎という重い名前の重圧ではないか」と言われる。
 確かに、歌舞伎役者、それも看板役者ともなるとその重圧はとてつもないものだろう。ご両所の彼岸でのご活躍を祈りたい。

 そうそう、「雪月花美人画の四季」展で、山川秀峰の絵がよかった。これがなかなか迫力のある絵で、234×222二曲一隻の屏風絵で、題は「阿倍野」、歌舞伎の「蘆屋道満大内鑑」(あしやどうまんおおうちかがみ)の主人公の葛の葉と狐を描いたものである。いろいろなものがいろいろなところでつながる。これが楽しい。

 ということで、本日の三題噺を閉じさせていただきヤス。おあとがよろしいようで。