名古屋が生んだ名人(笑)三遊亭円丈が『落語家の通信簿』(祥伝社新書)を出版した。円丈ファンのワシャは早速読みましたがな。
いやー、これがおもしろかった。円丈師匠の本はおしなべておもしろい。『ファイナル雁道』では、愛知県三河地方をボロクソに書いてあって笑わせてもらった。とくに新幹線の三河安城駅のくだりには腹を抱えた。
「三河安城駅は、スゲエ小っちゃな駅でさァ、同じこだまでも2輌編成でないと停まれないらしい」
「三河安城駅のホーム、あれは実は映画のオープンセットなんだって。しかもペンキじゃなくて絵の具で塗ってあるから雨が降ると絵の具が落ちるらしいなァ」
ペンキより絵の具のほうが高いだろ!
円丈の師匠の円生が落語協会を飛び出した事件の顛末を書いた『御乱心』は読みごたえがあった。なにしろ円生の近くにいた円丈が冷静に事の成り行きを分析しているのだからおもしろくないわけがない。この作品では円楽がずいぶんと悪役になっているが、円丈の独断で書かれているのだから仕方がない。
おっと、『落語家の通信簿』だった。現在活躍している落語家は41人登場する。ほとんどの落語家を持ち上げているが、二人だけ褒めていない。一人は柳家三三(さんざ)、もう一人は立川志らく。
まず三三である。
「三三君を聴いてみた。悪くない!でも、何かが足りない。正直言って、あまり笑えない。まず、噺の中にあまりおもしろみがない。今時のギャグを入ってい、想定内で、あまり笑えない」と円丈は手厳しい。
三三の師匠の小三治も言っている。
「三三は落語には真面目に取り組んでいるし、そこそこできる。でも、そんなことより、三三が『どんな人間か』ということが噺に出てこなければいけない。人間としての深みがあってこその落語であり、そこが三三には欠けている」
円丈も小三治も「人間としての深み」が足りないと指摘しているわけで、これは三三が年齢を重ねて円熟味を増していけば良くなっていく可能性もあり、厳密に言えば応援の批評といったところだろう。
一方、志らくに関しては、突き放している。故人も含めて53人の落語家評の中でも、450字ともっとも短い。師匠の談志評には13ページも費やしているのだから、その差は歴然としている。内容も「すごく偉そうで」「落研シロウトっぽい高座」「彼が落語協会所属の落語家だったら、鍛えられて、もっとプロっぽくなっていたと思う」と酷評だ。
広瀬和生をはじめとする落語評論家たちは、志らくを絶賛している。もちろんワシャも志らくの高座はおもしろいと思う。でも、円丈は評価すらしていない。ワシャは円丈のその手の嗅覚を信頼しているので、志らくについてはもう少しうがった見方をしてみようっと。