釜石の奇跡

 昨日、群馬大学の片田敏孝教授の講演会があった。演題は「大災害から命を守る〜想定を超える災害にどう備えるか〜」である。
 片田先生の講演を聴くのは、2回目だった。ちょうど1年前に東京で、やはり災害対応、防災対策についてご高説を拝聴した。その時は、「3.11」から4カ月というホットな時期だっただけに、先生の話も生々しく、途中からは泣きながらの講演になったことを記憶している。
「釜石の奇跡」をご存じだろうか。当時、釜石市にはざっと3000人の小中学生がいた。その中で「3.11」の地震津波で亡くなった子供は5人だったという。たまたま当日病欠をしていた子、避難途中に母親が迎えに来て別行動をとってしまった子、別居している母親と進学準備のために早退して買い物をしていた子、近所の老人を助けに行ったために被災した子、この子たちが残念ながら亡くなってしまったが、学校の管理下にあった全員の子供が、一人残らずあの大災害を生き延びた。
 片田さんははっきりと言わなかったが、その奇跡が片田さんの8年に及ぶ防災教育の賜物であることは間違いない。
 昨日の聴講者は、どうだろう500人くらいだっただろうか。片田さんはその聴講者にこう言った。
「ここに来ている人に防災を説いても仕方がない。わざわざ私の話を聴こうなどという人は、元々防災意識が高い人だから。本当に私が話をしたいのは、防災意識のない人たち、ここに来ていない人たちを、どう感化するかが課題だ。その人たちに防災の大切さを理解してもらうことが被害を最小限に食い止めることにつながる」
 もうすぐ「9.1」が巡ってくる。災害を考えるには一番いい時期である。もう一度、地震災害、気象災害について身近な人と話し合ってみよう。災害を忘れないこと、そして自らの命を守ることに主体性を持つこと、それが重要だと片田さんは断言する。

 災害は必ずやってくる。その災害を生き抜くために今から準備をしよう。2mを超える本の棚に囲まれた危険な部屋でそう思っている。