都市銀行という旧態

 土曜日のNHKスペシャル「“魚の町”は守れるか」
http://www.nhk.or.jp/special/onair/120211.html
がおもしろかった。
 被災地復興のために必死に戦う信用金庫、確かに地域がなくなれば、自分たちの立っている基盤そのものが崩壊することを意味している。そりゃぁ必死になるだろう。だが、画面からはそれ以上の信金職員の熱情のようなものが伝わってきた。
「オラたちの故郷を守るべぇ」
 感動の報道番組だった。こういった質の高いものをテレビはすべきだと思わせる秀作だった。
 この番組の中に、ヒールが登場する。それも絵に描いたような悪役だ。番組中ではメーンバンクということで、随所にその影が見え隠れする。例えばこんな風に。
 水産加工会社の社長は、3.11の津波で工場から償却資産、資機材、備蓄をしていた製品まで、根こそぎ奪われてしまった。その津波に持っていかれた施設、設備だけで3億円の借入金がメーンバンクにある。社長は、メーンバンクの担当者に相談した。
「4億円の追加融資をしてほしい。そうすれば事業再開できる」
 しかし、メーンバンクは冷たかった。
「3億円のの借金の返済も目処が立っていないのに、4億円を上乗せして、それで返済ができるのか」
 と門前払い。
 社長は困り果てて、地元の気仙沼信用金庫に相談をかけた。信用金庫は門前払いしなかった。
「とにかく方法を考えてみましょう」
 ということになった。
 信用金庫の融資担当は必死にその方法を模索した。そして政府系公庫に協力を求める形でなんとか4億円の融資をするところまでこぎつける。
 ここで横槍が入る。メーンバンクがそのことを嗅ぎつけたのだ。
「政府系公庫の協力があるのならうちの銀行で融資する」
 というのである。
 だか、水産加工会社の社長はメーンバンクに対する不信感をぬぐえない。
「オラ、気仙沼信金さんとつきあいたい」
 そう、メーンバンクの担当者に言い切った。
 さあ、メーンバンクの締め付けが始まる。
「信用金庫に融資をしてもらうなら、うちの3億円を返してからにしろ」
 と言うのだ。
 このメーンバンクとのやりとりで社長も、信金の職員も厳しい消耗戦を強いられる。気仙沼の復興のためなのだ。気持ちよく、気仙沼信用金庫に譲ってやればいいものを、漁夫の利を得ようとするメーンバンクの意地汚さが、被災した中小企業、復興に力を尽くす信用金庫を苛む。
 それに加えて当時の菅政権が、グズグズしていていつまで経っても、被災地の企業への支援を打ち出さない。これらがどれほど被災地の企業を潰したことか。
 気仙沼信金の担当者が、メーンバンクの担当者と話していて、語気を荒げた。
「私もね、今、とても腹が立っています!」
 テレビのこっちゃでも腹が立ったわい。都市銀行の言いたいことはこうだ。
「小さな町のチンケな会社など、収益を上げている間は『客』だが、設備を失って路頭に迷う経営者など、不良債権以外のなにものでもない」
 小さな町が復興しようが、消えてなくなろうが、都市銀行には関係ない。そのことが200日の追跡で、具体的に見えてきた。やつらは地域にたかるハイエナなのだ。
 ジャーナリストの日垣隆さんが、みずほ銀行と大バトルをしたことは『どっからでもかかって来い!』(日本実業出版社)に詳しい。
 コラムニストの勝谷誠彦さんは、土曜日のメルマガで「休眠口座」の金が銀行の収益として処理されている実態を告発している。それに、みずほ銀行三菱東京UFJ銀行を天敵と言ってはばからない。

 財務省に擁護されつつ低金利で太るだけ太って、その上、復興には非協力的で旨みがあると察知すれば、猫なで声で近づいてくる。大手都市銀行は、東京電力と同じで、利権構造に乗っかった官僚企業だと思いませんか。