マドンナの競演

 ワシャは『男はつらいよ』が好きだ。映画館にも通ったし、ケーブルテレビのムービーチャンネルでも観た。ビデオ屋で借りてもきたし、今は『寅さんDVDマガジン』を購入して楽しんでいる。はてさて何回観れば気が済むのだろう。
 また、『男はつらいよ』関連の書籍も充実している。シナリオはもちろんのこと、評論やら、渥美清追悼雑誌などが書棚に並ぶ。

 ワシャが、7月をほぼ監禁状態で過ごしたことはご案内のとおりである。そこではビジネスホテルのシングルルーム程度の個室があてがわれるわけだが、研修施設なのでテレビがなかった。一緒に入所していた連中はテレビが見られないことを嘆いていたが、普段からあまりテレビを見るという習慣のないワシャはあまり困らなかった。
 でもね、DVDが観られないのは辛いよ。だから、7月発売の『寅さんDVDマガジン』を溜めてしまっていた。それを昨夜かためて鑑賞したのである。
 作品は、第27作の「浪花の恋の寅次郎」と第29作の「寅次郎あじさいの恋」。マドンナは「浪花の恋」が松坂慶子、「あじさいの恋」はいしだあゆみが演じる。

 まず「浪花の恋」について。
 大阪で芸者をしているふみ(松坂慶子)が旅先で偶然に寅次郎と出会う。そこから二人のプラトニックな恋が始まるのだが、その経緯についてはぜひ映画をご覧いただきたい。ワシャがここで特筆しておきたいのは、ふみの美しさである。寅次郎とふみは待ち合わせをして生駒山にデートに出かける。山頂のレストランで2人がビールを飲むシーンがある。その時のふみの仕草、目線、微笑み……元々松坂慶子は美人女優であるが、その天然の美しさに演技が拍車を掛けた。これでは寅さんでなくとも参ってしまう。絵にも描けない美しさとはこのときの松坂のことだと思う。

 次に「あじさいの恋」である。
 寅次郎、ひょんなことから陶芸家の家で女中をしている、かがり(いしだあゆみ)と知り合う。ある事情でかがりは京都をあとにして故郷の丹後伊根にもどる。寅次郎は、かがりを元気付けようと伊根を訪れるのだが、最終の船に乗り遅れ一夜の宿を乞うことになる。
 この一夜がいい。寅次郎とかがりのやりとりが、はかなくて、切なくて、大阪の映画館では「寅、いてまえ!」という声が掛かったそうである。でも、寅はいてまわない。それが寅さんなのだ。
 いしだあゆみという女優は松坂慶子とは違って「美人女優」というカテゴリーには入ってこない。しかし、寅次郎に酌をするときに少し膝をくずすのだが、その仕草の色っぽいこと、じっと寅次郎を見つめる視線の熱いことといったらありゃしない。
 あの状況でよくぞ寅さん我慢をしたものだ。きっと寅さんは「聖人」なのだろう。

「寅さん」のシリーズ全48作の内で、ワシャがもっとも好きなマドンナはリリー(浅丘ルリ子)である。でもね、ふみもかがりも間違いなく上位に入っていくるマドンナと言っていい。