Sさんという女性の話をしたい。その人は地域の河川を甦らせようとがんばっているボランティアグループのリーダーだった。その方が先週末に市内の病院で息を引き取った。61歳の若さだった。
Sさんは数年前に癌を発症している。彼女は告知を受けたが、まったく怯まなかった。癌と戦いながらも、地域の河川浄化、河川美化にも全力を傾注した。抗がん剤を打ちながらのボランティア活動は大変だったろう。当然のことながら治療の終わった直後は身動きもできないほどの苦痛に苛まれる。しかし、Sさんはすぐに立ち上がり、仲間を指揮してボランティア活動の先頭に立ち続けた。
彼女の精力的な活動を傍から見ていて、その華奢な身体のどこからそんな力が涌いてくるのだろうと不思議に思っていた。それほど一所懸命に地域の美化のために動いていた。
8月の末、Sさんは我社を訪れている。2ヶ月ぶりくらいに顔を見たのだが、ずいぶん痩せたなぁと感じた。でも、発言は相変わらず前向きで、これからすべき活動についていろいろな話して、最後に「元気にやらなあかんよ」と言い残して帰っていった。それがまさに最期になってしまった。
その後、頭部に転移していた癌が肥大化し、これが脳を圧迫したらしい。このために体調が急激に悪化して、Sさんは病院に担ぎ込まれたが手の施しようがなかった。
葬儀の時に、親しい友人が弔辞の中でこんな話を披露している。
その人が急ぎ見舞いに駆けつけたときには、本人はほとんど昏睡状態だったという。それでも、Sさんの耳元で「がんばって」と声を掛けると、混濁した意識の下でかすかに呟いたそうだ。
「まけてたまるか・・・・・・」
Sさんは、それから数日を生き、秋風の吹き始めた週末に彼岸へと旅立っていった。
ボランティアの仲間とともにSさんは、夏の初めに地元の河川の土手に曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の花を植えている。冗談で「なんでそんな花にしたの?」と突っ込みを入れたが、彼女は、笑っただけでなにも答えなかった。
昨日の仕事帰り、その土手に曼珠沙華を見に行ったのだが、時期が少し早かったのだろう。ほとんどが蕾の状態で、開花していたのは一輪のみだった。花が土手を真っ赤に染めるのは、彼岸過ぎまで待たなければならない。