京都メモ(鱧しゃぶ騒動) その2

(上から続く)
「待たれい!」
 京都の知人が脇の刀を持って立ち上がっていた。
「なんでござりますかいな」
「鱧しゃぶは……一枚ずつしゃぶしゃぶするもんじゃ」
「えええ!知りまへんどした」
「きちんとルールを守りんしゃい」
「すんまへ〜ん」
 などとやっている間に、ゲゲゲ!ワシャのテーブルの大皿はきれいさっぱり鱧がいなくなっているではないか。見れば仲間1号の口の端に鱧が挟まっている。こいつがワシャの大切な鱧を食ったに違いない。ううう……許せぬ。ワシャは知人から刀を取り上げると「お見やーん」の気合もろとも1号を大上段から唐竹割りに斬りつけた。

 ちなみに、この「お見やーん」という気合は、土佐人独特の気合で、池田屋新選組と闘った土州人の望月亀弥太が好んで使った。詳しくは、司馬遼太郎竜馬がゆく』(文春文庫)第5巻「池田屋ノ変」をご覧あれ。

 ワシャは高校時代に剣道2段を誇る剣道部員に真空飛び膝蹴りで勝ったことのある人間だ。だから、1号は一刀両断になるはずじゃった。しかし、敵もさるもの引っ掻くもの、なななんと、鍋のフタでワシャの剣を受けよった。むう、おぬしは塚原卜伝か?
 ワシャと1号は鍋をはさんで睨みあったままだ。少しでも隙を見せればやられる。このままでは埒があかぬ。この間にもテーブルの食材はどんどん他の仲間の胃袋に消えていく。
「もう一皿、はもめばいいじゃん」
 と、下で生ビールをごぼごぼ呑んでいる2号が言った。
「その手があったか」
 ワシャはひとまず矛を収め、テーブルに座りなおすと、店員さんに「鱧しゃぶ大皿」を追加したのだった。めでたしめでたし。

 少しして大皿が出てきた。「わーい」とばかりに、鱧を数片まとめて箸て摘み上げて鍋でじゃぶじゃぶとやっていた。
「待たれい!」
 京都の知人が脇の刀を持って立ち上がっていた。以下、同じことが繰り返されたので割愛する。