愛知博のこと

 週間文春に、岐阜出身の直木賞作家奥田英朗さんが「愛知博」のことをルポルタージュしている。
 リニモで待たされ名古屋駅から会場まで2時間を費やした奥田さんは「すでに口数が少なくなっている。」状態に陥った。そしてお目当てのマンモスでは整理券を入手したものの、3時間半後の入場と知り「出鼻をくじかれる。」のである。でもめげない奥田さん、仲間を誘って企業パビリオンを目指すのだが、地獄の愛知博はそんなに甘くない。とっくに整理券ははけており、午後5時以降の「先着順入場」に賭けるしかない。
奥田さんは言う。
「するってえと何かい?朝の七時の新幹線に乗って駆けつけても、夕方までは見られないってことなのかい?」
 そうなんです。愛知博は長久手周辺に住むパスポートをもった連中のためだけに開催している博覧会なんですよ。(ワシャも最近そのことに気がついたのじゃ)
 奥田さんは、それでも懲りずに、見たくても見せてくれない企業館に後ろ足で砂をかけて、「万国博覧会の主役は参加国だ」と思いなおして、企業ゾーンに一番近いグローバル・コモンを訪れる。ここでイエメン館に入って「ここは歌舞伎町の露店か!」と驚くのである。奥田さんのお見こみのとおり、参加各国に大阪万博のようなやる気は微塵もない。お義理に出展しているだけなのだ。
 奥田さんを含む昭和30年代前半生まれのワシャら世代は大阪万博の大いなる幻想に取りつかれている。だから幻想を抱いたまま愛知博に足を運ぶと思いきり横っ面を張り飛ばされる。企画物の杜撰さ、チンケな展示、営利一辺倒の外国館、まずい食い物、にも関らず混んでいる飲食店、そして日本人(近所の人)ばっかりの会場・・・どこをどう取り上げても、救い様のない博覧会なのである。
 結局、奥田さんは「どうして愛知万博が盛況なのかはわからない」と頭を抱えている。そして「足を引きずりながら会場をあとにするのであった。」と結んでいる。
 そうなのだ。愛知博に行った「長久手の近所に住んでいる人」以外の感想は、概ね奥田さんと同じなのである。ハイテンションで騒いでいるのは、博覧会協会と地元テレビ局だけなのだ。軽薄な地域タレントの言説に乗せられて、どれほどの人が灼熱地獄で行列に並ばされたことだろう。
 関係者には大成功だったなどと絶対に言わせないぞ。